遮熱塗料を塗るにあたって、本当に省エネに繋がるのか?は気になるところ。
そこで「どの程度の省エネ効果が見込めるのか?」を本気で検証してみることにしました。
遮熱塗料の室温抑制効果とエアコンの省エネ効果を検証する条件
遮熱塗料の省エネ効果は、屋根材によっても違います。
また、建物の形状や断熱方法によっても変わってしますね。
ただ、そこに拘っていては比較や検証が出来ません。
そこでこの記事では遮熱塗料を塗ると、どの程度エアコンの省エネが出来るのかを検証してみます。
今回の検証では下記の3点を条件として設定します。
- 塗料の条件
- エアコンの条件
- 建物の条件
では上記の3つの条件の解説をし、その後で遮熱塗料の効果を試算していきます。
遮熱塗料の「塗料」の条件
「遮熱塗料」にも色々ありますし、いわゆる「断熱塗料」というカテゴリーもあります。
この記事ではJIS規格(JIS K 5675)による「屋根用高日射反射率塗料」のことを「遮熱塗料」と言います。
また遮熱塗料は色によって反射率がだいぶ違ってしまいます。
この記事では試験でよく使われる「グレー色」を塗った場合での効果を検証します。
グレー色で屋根を塗装した場合の室内への影響は「マイナス2度」と言われています。
- 塗料は「JIS K 5675」により定められた屋根用高日射反射率塗料
- 色は一般的な「グレー色(N6色)」で塗装した場合
遮熱塗料を塗る「建物」の条件
この記事では、一般家庭の戸建て住宅の塗り替え(外壁塗装)で遮熱塗料を塗った場合がどの程度省エネに繋がるか?という趣旨ですから、その「一般的な戸建て住宅」は、下記のような場合を想定する事にします。
- 木造2階建て約30坪の戸建て住宅
- 4LDKで夫婦と子供2人の世帯
- 屋根は薄型スレート屋根(いわゆるコロニアル)
- 外壁素材は考慮しない
- ロフトや吹き抜け天井は無し
エアコンの設置場所や性能の条件
最後に上記2点の条件で効果を検証する時に設定するエアコンの条件を決めておきます。
- 検証するエアコンは、各メーカーの2023年時点での最新エアコン
- 省エネ性能(電気料金の下がり額)は、各サイズのエアコンでの【夏季の期間消費電力量】のデータで検証する
期間消費電力量とは
期間消費電力量とは、1年を通じてエアコンを使用した場合に消費する電力量の目安で、以下のような試算値となっています。
- 外気温度:東京をモデルとしています。
- 設定温度:冷房時27℃/暖房時20℃
- 期間:冷房期間(5月23日〜10月4日)
- 暖房期間:(11月8日〜4月16日)
- 時間:6:00~24:00の18時間
- 住宅:JIS C9612による平均的な木造住宅(南向)
- 部屋の広さ:機種に見合った部屋の広さ
期間消費電力量による1年間の電気代の計算式
期間消費電力量をもとに、1年間の電気代は以下の式で計算しています。
1年間の電気代(円)=期間消費電力量(kWh)× 1kWhあたりの電気料金※(円)
※公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会の新電力料金目安単価をもとに、1kWhあたり31円で計算しています。
Q:カタログなどに載っている電気代はどのようにして算出するのですか?
A:電気代は、電力料金と使用時間で算定されます。(電力料金単価×使用時間=電気代)
電気代は電力料金と使用時間で算定されます。電力料金は地域により異なる場合がありますので、家電公取協では、電気事業連合会のご協力により得られた全国の電力料金を踏まえ、目安単価を決めています。
引用元:公益財団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会
現在の目安単価は、31円/kWh(税込)です。
また、使用時間については、商品によりいろいろ異なりますので、各工業会で算出方法の基準を決めています。基準がない場合には独自の算出方法を使用することもありますが、その場合は必ず算出根拠を、表示することが必要とされています。 なお、現在の目安単価は、電力会社の電力料金の改定を受け、令和4年7月22日に改定したものです。
期間消費電力量の試算例
例えば期間電力消費量が冷房時166kWh、暖房時420kWh、合計586kWhのエアコンがあるとすると、下記のような計算式で電気料金の試算ができます。
夏季の冷房代:166kWh ×31円/kWh=5,146円(A)
冬季の暖房代:420kWh ×31円/kWh=1,3020円(B)
1年間の冷房+暖房のエアコン電気代:18,166円(A+B)
夏場のエアコンの電気代
ただ、エアコンにも大きさやグレードにより消費電力が違います。
そこで、各社のエアコンで期間電力消費量を調べてみました
各社エアコンの平均的な夏季電気料金
上記エアコン3社の夏季電気料金の平均を求め、遮熱塗料の効果を求める指標のベースにします。
6畳 | 8畳 | 10畳 | 12畳 | 14畳 | 18畳 | 20畳 | 23畳 | 26畳 | 29畳 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
日立 | 6,402円 | 7,208円 | 7,897円 | 11,718円 | 12,780円 | 18,585円 | 20,119円 | 24,472円 | 24,986円 | 31,124円 |
パナソニック | 6,144円 | 6,820円 | 7,502円 | 10,928円 | 12,691円 | 17,918円 | 20,390円 | 22,469円 | 25,389円 | 31,372円 |
三菱電機 | 6,324円 | 7,099円 | 7,812円 | 11,929円 | 13,051円 | 18,724円 | 19,974円 | 24,470円 | 25,389円 | 29,543円 |
平均 | 6,290円 | 7,042円 | 7,737円 | 11,525円 | 12,841円 | 18,409円 | 20,161円 | 23,601円 | 25,255円 | 30,680円 |
戸建て住宅で遮熱塗料の効果が得られる居室の条件
遮熱塗料は最上階にしか効果が無い
遮熱塗料で効果が得られるのは主に屋根に塗った時ですから、1階のエアコンには省エネ・節電の効果は得られません。
・2階建てなら2階のみ
・3階建てなら3階のみ
その居室にあるエアコンの省エネ・節電に効果があります。
遮熱塗料の効果を左右する各種の条件を考える
また、実際の遮熱塗料の効果が強く出るか・弱く出るかについては、以下の各条件の組み合わせにより変わってきます。
今回は「一般的な戸建て住宅」で遮熱塗料を塗った時の節電効果をエアコンの電気料金の減額分で調べるので、下記の各条件に合わせて節電効果への影響を考えていきます。
- 建物の階数(2階建て・3階建て)
- エアコンのある居室の大きさと数(6畳・8畳・10畳…)
- 各部屋にあるエアコンのサイズ(22・25・28…)
- エアコンの古さ(製造年)
- 各部屋の天井(天井がある・吹き抜けがある・天窓がある等)
- 屋根材の種類(薄型スレート/コロニアル・ガルバリウム鋼板/トタン・アスファルトシングルなど)
- 現在の屋根の色
- 家の立地・日当たり
では、それぞれの部分で効果の出かたについて考えてみましょう。
① 建物の階数(2階建て・3階建て)
一般的に2階建ての最上階より3階建ての最上階の方が暑くなる傾向にあります。
2階建てより3階建ての最上階が暑くなるのは以下の理由です。
- 2階建てより3階建ての方が太陽に近い
- 周囲の2階建ての家の屋根からの照り返し(輻射熱)が3階建ての家の外壁に当たって熱くなる
- 3階建ての家では、外壁の一部が斜め屋根になっていることが多い
- 3階建ての家では、天井が吹き抜けや斜め天井になっていて小屋裏空間が無い事が多い
- 3階建ての家では、天井があっても部分的だったり小屋裏空間が2階建ての場合より狭い(少ない)場合が多い
2階建ての家
多くの2階建ての家には、屋根と2階の天井の間に小屋裏の空間があります。
この一見無駄に思える空間がある事で、屋根の熱を階下に伝えづらくすることが出来ます。
3階建ての家
3階建ての家では高さ制限のため、2階建ての家のような小屋裏空間を十分に取ることが出来ません。
そのため屋根の熱が階下に伝わりやすくなってしまいます。
小屋裏空間の役割
天井裏のことを「小屋裏」と言いますが、夏場の2階建ての小屋裏の気温は60度~70度になると言われています。
ネット上にも「屋根裏収納でロウソクが溶ける」という記事がありますが、私自身も小屋裏収納に置いたクリスマスキャンドルが溶けてドロドロになっとい話を聞いたことがあります。
確かにロウソクは60度程度で溶けるらしく、小屋裏の温度が60度以上になることは本当のようです。
また、真夏の屋根の表面温度は80度になることもあり、直下の小屋裏の温度が60度になることは想像に難くありません。
② エアコンのある居室の大きさと数(6畳・8畳・10畳…)
遮熱塗料で省エネ効果が得られるのは、実質的に最上階にあるエアコンの節電効果によるものです。
ですから最上階の居室の数と大きさにより節電できる効果が変わります。
③ 各部屋にあるエアコンのサイズ(22・25・28…)
部屋の大きさによってエアコンの容量サイズは変わります。
それと共に元々のエアコンの消費電力(電気代)と共に省エネ節電効果も変わります。
⓸ エアコンの古さ(製造年)
エアコンの省エネ性能は年々UPしていますから、古いエアコンを使い続けていても省エネには限界があります。
エアコンの寿命は一般的に10年程度と言われていますので、省エネのために不必要に買い替えるのは本末転倒ですが使用年数によっては買い替えを検討しても良いでしょう。
例えばダイキンのサイトでは13年前の機種と比べると消費電力は約16%カットできるとのことです。
ちなみに我が家のエアコンは10年前と12年前の物でした。そろそろ検討の時期ということですね。
⑤ 屋根材の種類
屋根材の種類により屋根の表面温度は変わってきますので、階下へ伝わる温度も違ってきます。
戸建て住宅の屋根は主に以下の3種類です。
- 薄型スレート(コロニアル)
- アスファルトシングル
- ガルバリウム鋼板(トタン)
一般的に薄型スレート(コロニアル)とアスファルトシングルは同程度ですが、それらよりもガルバリウム鋼板(トタン)の屋根は暑くなる傾向にあります。
⑥ 各部屋の天井(天井がある・吹き抜けやロフトがある・天窓がある等)
平らな天井があれば小屋裏空間があるので、屋根の温度が直接室内には入ってきません。
このタイプの部屋を基準とすれば、下記の2パターンの部屋は寒暖の差が大きくなりますので
しかし、小屋裏空間を有効活用しようとして吹き抜けやロフトを作れば、(断熱材を入れたとしても)屋根の温度が室内に影響を与え、夏は暑く冬は寒くなるでしょう。
屋根に天窓を付けた場合も同様に部屋の寒暖には、少なからず影響があります。
⑦ 現在の屋根の色
屋根の色は太陽光が当たった時の表面温度上昇に影響があります。
濃い色の屋根は暑くなり薄い色の屋根はそれよりは暑くなりません。
遮熱塗料の効果をより高めるためには白系の色が良いのですが、1つ注意が必要です。
白い色は塗料としての寿命が短く、黒い色は寿命が長いという点です。
屋根の色は、遮熱の効果と塗料の寿命のバランスをよく考えて決めなければいけません。
⑧ 家の立地・日当たり
遮熱塗料はあくまで太陽光が当たっている部分にのみ効果があるので、真夏の蒸し暑い曇りの日には全く効果がありません。
ですから近隣に高い建物があり、屋根に太陽光があまり当たらない立地の場合は大きな遮熱効果は得られないかもしれません。
遮熱塗料の省エネ効果を検証
では遮熱塗料を塗った時にどのくらい電気代が節約できるのかを検証します。
検証の例は各ハウスメーカーがホームページで紹介している間取り例で具体的に試算検証してみます。
30坪2階建ての家で遮熱塗料を塗った時の平均的な省エネ効果
では、30坪2階建ての家で遮熱塗料を塗った時の省エネ効果を試算してみましょう。
このシミュレーションは以下の条件で検証しています。
- 建物の階数は…2階建て
- エアコンのある居室の大きさと数は…各ハウスメーカーのホームページより参照します
- 各部屋にあるエアコンのサイズは、部屋の大きさに適したものを選ぶ
- エアコンの古さは、遮熱塗料を塗りたい場合なので10年前の物と仮定します
- 各部屋の天井には…天井がある(吹き抜けは無し・天窓も無い場合)
- 屋根材の種類は、一番多い薄型スレート/コロニアル
- 現在の屋根の色は黒系…遮熱塗料の色はグレーにする
- 家の立地・日当たりは…周囲に日差しを遮る高い家やマンションは無いと仮定します
この検証結果から得られた数値をまとめると以下のようになります。
屋根を遮熱塗料で塗った結果の省エネは、ひと夏の電気代が平均で4,745円安くなる、というシミュレーション結果でした。
その後10年後まで塗り替えないとすると、遮熱塗料の節電・省エネ効果は4万7千450円という事になります。
(実際は塗料の劣化などで少々遮熱効果は落ちるものと思えます)
事例 | 節約できる年間の電気代 |
---|---|
ミサワホームの事例 ① | 4,176円 |
ミサワホームの事例 ② | 5,440円 |
ミサワホームの事例 ③ | 5,097円 |
ミサワホームの事例 ④ | 5,065円 |
住友不動産の間取り例 ① | 4,176円 |
住友不動産の間取り例 ② | 5,560円 |
三菱地所ホームの間取り例 ① | 5,073円 |
三菱地所ホームの間取り例 ② | 5,051円 |
タマホームの間取り例 ① | 4,176円 |
タマホームの間取り例 ② | 4,200円 |
アキュラホームの間取り例 | 4,176円 |
平均 | 4,745円 |
上記の詳しいデータは下記ページにまとめてありますのでご参照下さい。